楽天とソフトバンク、電力市場で覇権争い勃発 完全自由化で巨大市場めぐる競争激化

2015-02-18

2016年4月に迫った電力小売事業の完全自由化。自由化後は東京電力をはじめとする大手電力会社(一般電気事業者)、新電力(特定規模電気事業者:PPS)など制度上の事業区分はなくなり、全事業者が対等な条件で競争することになる。その対象となる一般家庭、商店など50kW以下の小規模電力契約者数は約8400万件で、市場規模は7.5兆円に上る。

それだけではない。完全自由化後に需要が活性化すると期待されている小規模電力消費者の電力データを活用した各種新サービス、電力消費を最適化するHEMS(家庭向けエネルギー管理システム)、蓄電池、家庭用燃料電池などを含めた電力関連の市場規模は20兆円を超えるとの予測もされている。

この巨大市場をめがけた動きが昨年夏頃から活発化。電力小売事業に参入する新電力として経産省に届け出た企業だけでも昨年末には468社となり、わずか1年で3.7倍にも増えた。そうした中、ソフトバンクと楽天が水面下で火花を散らし、エネルギー関係者の注目を集めている。

●新電力の覇権目指すソフトバンク
メガソーラー(大規模太陽光発電所)事業を全国展開しているソフトバンク子会社のSBエナジーは昨年12月26日、出力規模約2.4メガワットの「ソフトバンク紋別ソーラーパーク」(北海道紋別市)の営業運転を開始した。同社14カ所目のメガソーラーで、同社は今年も4カ所のメガソーラー営業運転開始を予定している。同社が11年10月の会社設立以来、まるで事業を一本に絞ったかのように全国各地でメガソーラー拡大を急いでいるのは、単に発電所数を増やすのが目的ではない。エネルギー業界関係者は「バランシンググループ(代表契約者制度)の規模拡大が目的だ」と指摘する。

バランシンググループとは、複数の新電力会社と大手電力会社が一つの託送供給契約(新電力が大手電力の送配電網を利用して自社顧客に電力を供給する契約)を結ぶ、複数新電力の代表契約者のこと。発電所で発電した大容量電力はためておくことができないので、時々刻々と変動する需要量(消費量)に合わせ供給量(発電量)を一致させ続ける必要がある。一時的であっても電力の需給バランスが崩れると送電網の電圧が乱れ、停電を引き起こす危険性があるためだ。このため電気事業法では大手電力に需給を一致させる「同時同量」を義務付けている。

そこで大手電力会社は需要予測に応じてどの発電所を運転し、どの発電所を休止するかなどの発電計画を立て、当日の需要変化を見ながら発電所の運転/休止、出力増加/減少などを細かく調整し、同時同量を達成している。

これに対して電気事業法が新電力会社に義務付けているのが「30分同時同量」だ。大手電力のように常時ではなく、一時的に需給バランスが崩れても、30分単位の総量で同時同量を達成すればよいことになっている。

だが30分単位といえども新電力が同時同量を達成するのは難しく、通常は需給バランスの崩れを大手電力会社が補っている。具体的には、新電力会社の発電量が不足した時は大手電力が自社の発電量を増やし、新電力の発電量が超過した時は大手電力会社が自社の発電量を減らして超過分を吸収している。新電力会社が大手電力会社へ前日に通告した需給計画が3%以上ずれた場合、新電力会社が大手電力会社へ弁償的に支払うのが「インバランス(発電量と電力消費量の差)料金」だ。

新電力会社にとってインバランス料金支払いは大きな経営コストとなる。「30分同時同量」の達成頻度が新電力会社の収益性を左右する。特に出力が不安定な太陽光発電や風力発電を電源にしている新電力の場合は、インバランス料金を支払う頻度が高く、経営黒字化のネックともいわれていた。このネックを解消しようと、00年の電力小売事業一部自由化に伴い導入されたのがバランシンググループだ。

バランシンググループでは、代表契約者となる新電力が複数の新電力を統括することにより、各新電力が発生させたインバランスを調整し、30分同時同量を仮想的に達成し、インバランス料金を最小化する仕組みだ。バランシンググループの規模が大きくなるほどスケールメリットによってバランシング(需給調整)がしやすくなり、電力市場で代表契約者の競争力が強まるといわれている。ソフトバンクが全国各地でメガソーラー拡大を急いでいる背景はここにある。

「北海道から沖縄まで『ソフトバンクソーラーパーク』を張り巡らすことにより、各地域のバランシンググループの代表契約者となり、『代表契約者ネットワーク』の構築により新電力の覇権を握るのが狙い」(エネルギー業界関係者)

●小売の覇権目指す楽天
インバランス料金の最小化を図る手法がもう1つある。「部分供給制度」だ。これは一電力消費者に対し、新電力会社と大手電力会社が個別に電力を供給する制度のこと。同制度も前述の電力小売事業一部自由化に伴い、経産省と公正取引委員会が共同で策定した「適正な電力取引についての指針」(1999年12月公表、11年9月最新版に改訂)により導入された。同制度に基づく契約内容を「基本消費量を新電力会社から、変動消費量を大手電力会社から購入」とすれば、新電力会社にとっては需要予測外れのリスクを減らせるメリットがあった。

ところが消費者側は新電力会社、大手電力会社など複数の電力会社と個別契約しなければならず、事務手続きやそのコストが増えるなどもあり、同制度採用例は2件しかなかった(1件目は04年に、2件目は06年にそれぞれ終了)。この欠点を補うため、電力卸取引のエナリスが考案したのが「部分供給制度」と「電力代理購入サービス契約」(消費者に代わり複数の電力会社から電力購入を請け負うサービス)の組み合わせによる「電力供給ワンストップサービス」といわれている。
これに着目したのが楽天だ。同社はまず13年6月にエネルギーサービス、楽天エナジーを立ち上げ、同年12月に楽天エナジーの新サービスとして「電力マネジメントサービス」を開始、電力事業に本格参入した。同サービスは楽天エナジーが消費者の電力代理購入契約者となり、「部分供給制度による電力調達、電気料金最適化、契約を一括代行する」というもの。

当面の対象は楽天の旅行予約サイト「楽天トラベル」加盟のホテル・旅館約2万7000社。だがこれは試運転のようなもの。来年の電力小売完全自由化後は「国内約8700万人の楽天会員の家庭に向け、同サービスを展開する」(同社関係者)との壮大な計画で、電力小売事業の覇権獲得を目指している。「電力部分供給の購入代理サービス」を行う同社は新電力ではないので、インバランス料金支払いのリスクを負わずに電力小売事業を展開できる。濡れ手で粟のようなビジネスモデルだが、楽天はこれで喜んでばかりいられない。

●需給バランスの精度
インバランス料金の最小化は新電力会社にとって最大の経営課題だが、完全自由化以降はこれが一層深刻化すると予想されている。その背景には、原発停止が続く中でのメガソーラー急増がある。原発停止で電源が不足し、日本卸電力取引所の取引価格平均は11年3月の東日本大震災発災前の10円/kWh未満から発災後は15円/kWh前後に急騰・高止まりしている。このため、日本卸電力取引所で電力を調達するより、固定価格買取制度に守られたメガソーラーの電力を調達するほうが安くなっており、新電力にとってはメガソーラーが有力な電力調達先になっている。

ところが、出力が不安定なメガソーラーの電力を調達して「30分同時同量」を達成するのが容易ではない。新電力にとってこれまでの需給計画3%のズレ発生は、大半が当日の発電量不足が原因だった。需給計画のズレを3%以内に収めるためには、天気予報を利用した空調の負荷予測とメガソーラーの発電量予測の精度を上げる必要がある。だが両方とも不確実な要素があまりにも多いため、精度を上げるのが難しく、「30分同時同量」達成の難易度は火力電源が主だった東日本大震災発災前より高くなっている。

したがって、楽天は「新電力に非ず」といえども「30分同時同量」の影響を間接的に受け、その影響は電力マネジメントサービスの「電力調達」や「電気料金最適化」の計画を狂わせる要因になる。

完全自由化後は、新電力会社と大手電力会社が入り乱れた「電力戦国時代」に突入する。電力小売事業は「電気の品質で差別化」の要素がない。同業他社との差別化は「電気を安く売る」よりも「電力需給バランスの精度」が重要になる。これが低いと収益を確保できず、淘汰される側に回ることにもなる。

ソフトバンクと楽天の電力小売事業覇権獲得に向けたビジネスモデルは対照的ながら、どちらが先に電力需給バランスの精度を上げるかで勝敗が決まってくる。エネルギー関係者の間では「IT業界のイノベータと呼ばれる両社が、精度向上に向けたどんなイノベーションを巻き起こすのか」と期待も高まっている。

リンク元(Business Journal):http://biz-journal.jp/2015/02/post_8950.html

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